一切経山 1,948.8m



 みきが最近身に付けたもの、それは「体脂肪」。
それも、かなりの量の内臓脂肪らしい。
 ろくな運動も仕事もしないで食べてばかりの毎日だから、それは確実に身に付いていった。

 9月14日(水)までは毎日残暑が厳しかったが、テレビで天気予報の綺麗なお姉さんが「15日からは、気持ちの良い秋空が広がります。」なんて言うから、ついその気になってどこかの山に行くことにした。

 去年の秋に下見に行った、福島県の「一切経山」(標高1,948,8m)が第一候補になり、友人Yさんに声をかけたらふたつ返事で、15日(木)に行くことになった。

 月日はどんどん過ぎ、あっという間に今日は9月15日。
午前5時に目覚ましが鳴り、目を覚ました。

 友人Yさんとの待ち合わせ場所は、みきのアパート、だからYさんが自宅を出る時に電話をしてくることになっていた。

5時半…

6時…

6時半…

 いくら待っても、Yからの電話は来ない。
「畜生!Yの奴ぅ… あいつの上履き隠してやろう!」と、考えていたら、やっとYから電話が来た。

 午前7時10分、Yの自家用車で福島へ出発。
車は城里町(旧・常北町)から国道118号大宮町を抜ける。
 途中、大子町の「月待ちの滝」を見学し、いよいよ福島県矢祭町に到着した。

 矢祭町では、いつものようにトイレタイム。
道の反対側にある土産物店では、もう鮎の塩焼きなどを売っていたので、ついでに鮎の塩焼きとつくね串、味噌だんご串を買う。
 土産物店の主人との会話で、ここから須賀川までは約1時間半かかるとのことだった。
結局、ここで食べたつくね串が今日の朝食となり、須賀川に向かって更に車は走った。

 午前10時50分、東北自動車道・須賀川ICから高速に乗り、福島西ICで降りる。
国道115号を右折し、磐梯吾妻スカイライン方面へ。

 午前11時50分、磐梯吾妻スカイラインの途中にある「浄土平駐車場」到着。
ここまでの走行距離227.7km。


   
                   磐梯吾妻スカイラインにある「浄土平駐車場」

 浄土平ビジターセンターに入る。
受付に座っていた中年男は、来客に対して何の反応も示さず感じが悪い。
センター内の展示コーナーなども、あまり役に立ちそうになく、そういえばほとんど客もいない。
さらに、ここには来客用のトイレさえも無いのだ。

  
浄土平ビジターセンターURL http://www.bes.or.jp/joudo/vc

 ビジターセンターの脇に天文台があり、その隣に大食堂と売店があった。
売店でトイレタイムをし、ついでに土産物も買ったのだが、これが後で大正解だったこととなる。


         
                     浄土平ビジターセンターの周辺マップ

 装備を整え、午後0時30分、一切経山へ向かう。
ビジターセンターの脇から歩き始めると、そこには湿原が広がり、ここはもう秋の装いだった。

       
                         湿原に咲くリンドウ

 登り出すとパラパラと雨が降ってくるが、すぐに止む。
何度かの小雨で、簡易コートをザックから取り出すと、途端に雨はピタリと止み、二度と降ることはなかった。

 歩き出した時、みきのお腹は「ぐぅー」となっていた。
もう午後1時近くだから、空腹をこらえてのガレ場の急登はキツイ。

 ビジターセンターにあった「周辺マップ」も、矢祭町で買った「鮎の塩焼き」も車の中に忘れてきてしまった。
鮎も一切経山に登りたかったであろうに…
 周辺マップを忘れたため、これが後で遭難寸前の大事件に… なんか、嫌な予感が…

 天気は雲の多い秋空… という感じで、陽が差したり曇ったりで、さすがに吹く風は肌を刺すような寒さである。
ここも風は強い。
帽子サイズはぴったりだったのだが、今日はすこしゆるくなっている。
ダイエットの効果がこんな所に出てきたのか、はたまた○○が薄くなったのか…

 ガレ場の途中、風を避けて昼食。
今日は時間が遅くなってしまったので、早々に昼食を済ませて更にガレ場を登る。

 最近のみきはガックリと体力が落ちてしまった。そう、ガックリと…
まるでSLのように「ぜいぜい、はーはー」しながら登る。

 ガレ場といっても尾根を歩いているので、360度周りの景色が見える。
「浄土平駐車場」の道をはさんだ向こうは、火口をポッカリ空けた「吾妻小富士」。
この吾妻小富士がここからは素晴らしい眺めだ。


   
                     ガレ場から望む「吾妻小富士」の眺め

 左手に「鎌沼」が見えてきた。
この沼も周りが湿原になっていて素晴らしい眺め
だ。

   
                      登山道の左手に見えた「鎌沼」

 しばらくガレ場の急登を登ると、なだらかな尾根道になる。
周りの景色に目を奪われながら、頂上へ向かう。


   
                     「吾妻小富士」と右は「桶沼」

 午後2時50分、一切経山頂上に到着。
そこはなだらかで、山頂を示す標識が立ち、すぐ脇に一等三角点の石があった。

   
                   一切経山頂。標識の右にあるのが一等三角点の石。

 山頂を過ぎると、その先には「吾妻の瞳」とも「魔女の瞳」とも呼ばれる「五色沼」があった。
この「吾妻の瞳」を見るために今日は登ってきたのだ。
 岸は緑色で、中心部に向かって濃いブルーに変わるその沼は本当に素晴らしい。

 その「吾妻の瞳」から更に下りの登山道が伸びている。
みきは想像した… 「ここを下ると左折して鎌沼方面に行けるに違いない。」
周辺マップを忘れ、又そこには行先案内標識も立っていなかったのだ。


   
                      「吾妻の瞳」とも呼ばれる「五色沼」

 「吾妻の瞳」を右に見ながら、みきとYは急なガレ場を下っていった。
かなり下ってきた。
 ガレ場から熊笹の生い茂る山中にまで下ってきた。

 後ろからYが、さかんに「何処まで行くの?」と言って来る。
しかし、相当急なガレ場を下ってきてしまったので、ここから山頂へ引き返す考えは出ない、とにかく下まで行って、帰り道を探すしかない。

 行けども行けども左手に行く道がない。
その内、生理的欲求、それも思いっきり大っきいのが、波の寄せ来るように襲い掛かってきた。

 危うし! みき!
もう、周りを見渡す余裕も無く、小走り状態となっていた。
降りきった広場で素早くザックを降ろし、中から道で配っているサラ金のポケットティッシュを鷲掴みにすると、いざ鎌倉とばかりに一気に物陰へ走って行った。

 この後の描写は私の最も得意とするところではありますが、紙面の品格上割愛させて頂きます。
なお、この公衆便所? は、世間の通例である臭い、汚い、怖いが全くない、清潔で見晴らしの良い、明るい場所でした。(笑)

 あー、すっきり。
いったいあの痛みはどこへ行ったんだろうか?

 握りしめた「アイフル」のティッシュには、松本伊代ちゃんが「生活じょ〜ず」とやさしく微笑んでいました。
よーし、お金を借りる時はアイフルに! と、かたく心に誓いながら、ゆっくりとその青空の下を離れた。

 とうとうあのきれいだった「吾妻の瞳」の水辺に近いところまで降りて来てしまった。
冷静になって、その辺を見渡すと左手方向に行く道は、そこには無かった。

 ここまで降りてきても、帰る道はそこには無かった。
ただいま、午後3時20分。

 しかたなく今来た道を山頂まで引き返すほかはない。
もう時間的に猶予はない、とにかく遭難しないために山頂まで引き返す事にした。

 SLのみきは登りになると極端に体力がなくなり、休みながらあえぎながら登る。
こういう追い込まれた状況下だと、普段以上の力が出る… はずなのだが、やっぱりみきは「1人SL」をやっていた。

 なんとかガレ場まで登ってくると、ここから登山道沿いに山頂近くまでトラロープが張ってある。
みきは、このトラロープにつかまりながら、やっとのことで山頂まで戻ってきた。

 ちょうど4時だ。
このぶんだと、駐車場着が5時半頃だろうから、なんとか暗くなる前に帰りつける。


   
                     一切経山頂から見る「吾妻小富士」

 休まず、とにかく下山開始。
さっきの「吾妻の瞳」の感動も薄れ、とにかく歩く。

 ガレ場を下り、予定通り午後5時半、駐車場に到着。
幸運だったのは、ここ「一切経山」は、山といっても立木のない岩山だったので、夕方になっても足元が暗くならなかったことだった。

 ビジターセンターや土産物店は、もうとっくに閉まっていた。
登る前に、ついでにお土産を買っておいて、本当にラッキーであった。

 駐車場には他に車が2台。
1台は係員の車、あとの1台はここでキャンプでもやるのだろうか、薄暗くなったベンチで初老の男女が食事をしていた。

 車に戻り、一息ついてコーヒーを飲み、帰途に着いた。

 今日のスケジュールは、「泊まれれば泊まるし、帰れれば帰る…」と、いうものだった。
泊まる場合は、去年泊まった桧原湖畔の「民宿ひばら」にしようと思っていたが、今から走っても民宿ひばらには7時半過ぎになってしまうだろうし、民宿ひばらに予約してある訳じゃないし、明日の予定もないので、茨城に帰ることにした。

 午後6時10分、浄土平駐車場を出発、来た道を福島市方面に走る。
磐梯吾妻スカイラインを下る途中、2度ほど茶色の「野うさぎ」が車の前を横切っていった。

 帰っても誰も待っていないみきは、高速を使わず国道4号に出て須賀川まで一般道を走ったが、ここがとにかく高速道のように流れが速い。
周りに店などがないので多分バイパス道なのだろう、80キロから90キロのスピードで走った。

 帰りは何処にも寄らず、みきの住む隣町で遅い夕食を食べ、午後11時40分、無事アパートに到着した。
なお、一切経山に登れなかった「鮎の塩焼き」は、結局時間的に食べることが出来ず、アパートにまで持ち帰った。

ふぅー、結局、福島まで日帰り登山という強行軍だった。
 総走行距離は461.0km。